私は鉄の美、特に「耐候性鋼」の良さを強調したかったので、
「鉄」で勝負をしていこうと決意しました。
新井
株式会社フロントはこの度43期目を迎えました。あらためて初心を振り返り、鉄、特に耐候性鋼に注目したきっかけを教えてください。
松川
わたしは、起業する前に務めていた会社では、ステンレスの建材を扱っていました。ステンレスに対して、良い素材だと思う反面、当時は「鉄」が構造材としてしか扱われておらず、金属建材の意匠として活用されていなかったことに違和感を感じていました。鉄は加工がしやすく、ステンレスと比べて材料費が安く、強度はアルミの3倍あり非常に丈夫です。そこで「耐候性鋼」を建材として全面に出していきたいと考えました。それから間もなく半世紀、現在当社が関わった案件は、東京メトロ銀座線虎ノ門駅、NEWoMan横浜、桜美林大学新宿キャンパス、TOKYOTORCH常盤橋タワーなど「ランドマーク」といわれる大建築を飾るまでに至っています。
新井
当時はアルミの建材が主流だった中で、松川会長の「鉄」の良さを伝えたい想いが「株式会社フロント」設立の原点だったということですね。
松川
そうですね。アルミ建材も良いけれども、「耐候性鋼」の意匠としての建材は当時、ほとんど市場になかったので、フロンティア(開拓地と未開拓地との境界)を由来に、「株式会社フロント」を設立しました。鉄は朽ちていく素材なので、サビをサビで制するという耐候性鋼の強みを活かし、現在は独自のプロダクトを扱う新規事業も推進しています。
新井
意匠として鉄の建材を扱うことがほぼ無い中、鉄の建材を世の中に広めていくにあたって印象に残っているエピソードはありますか。
松川
株式会社フロントを設立した当時、金属はアルミが主な時代。金属建材の8〜9割はアルミでしたね。どうしてアルミ建材が多く使用されているかというと、型材が容易にできることが最大の理由でした。加工がしやすく、安く速く完成できる。つまり、大量生産大量消費ができることは、当時の高度経済成長に向いていた建材だと思います。私は鉄の美、特に「耐候性鋼」の良さを強調したかったので、「鉄」で勝負をしていこうと決意しました。現在、当初抱いていた想いから100%達成とは思っていませんが、当社が耐候性鋼を全面に「意匠」として打ち出したことで、お客様から、鉄が意匠材として求められていると感じています。
新井
「鉄」にかけるこだわりや特徴を教えてください。
松川
お客様のニーズに応えたものを提供するために、当社は独自の加工・仕上技術を生み出しました。そして、塗装技術は特許を取得しています。鉄に重層塗装を行い、深みのある仕上げを行っています。鉄は素材として、非常にいい材料です。しかし、鉄の一番の弱点は、サビて朽ちてしまうことです。お客様は、サビに対して、嫌悪感があると見受けられます。しかし、耐候性鋼は表面にはサビは発生しますが、種々な元素を含み表面のサビが皮膜となることで内部にサビが侵食していかない仕組みになっています。
当社は、オリジナルのプロダクトを扱う新規事業として、「NAGOMI事業部」を立ち上げ、意匠としての鉄を全面に打ち出した製品を開発し販売しています。お客様には、NAGOMI製品を身近に取り入れていただき、鉄の経年変化を楽しみながら、地球にもやさしいサスティナブルな暮らしを楽しんでいただきたいですね。
NAGOMI事業部を発足した理由は、鉄の魅力をより一層お客様へ伝えて、
生活の一部として身近に鉄に触れてほしいと思ったからです。
新井
新規事業である「NAGOMI事業部」はどういったコンセプトでつくったのか教えてください。
松川
NAGOMI事業部を発足した理由は、鉄の魅力をより一層お客様へ伝えて、生活の一部として身近に鉄に触れてほしいと思ったからです。また、NAGOMI事業部からエントランス商品が生まれた背景は、建物の顔となる玄関ドアや門柱に価値あるものを、デザインとして目立つところに置くことで、建物の奥深さや美しさを日常で感じてほしいという想いがあります。私は、鉄の美しさをエントランス部分にもってくることで、建物の品格が上がると考えました。例えば、マンションのエントランスホールにおもてなしの空間を演出する玄関集合機「TOUL」は、当社のヒット商品になっています。この商品を皮切りにお客様から要望をいただいて、エントランスのプロダクトを現在4種類展開しています。「FRONT‐フロント」として前面に耐候性鋼の製品を打ち出し、お客様のニーズを踏まえた企画開発製品によってNAGOMI事業部を前進させるきっかけにしたいという想いがあります。
新井
NAGOMI事業部は順調そうに思いますが、現在の状況はいかがですか。
松川
NAGOMI事業部は順調な面もありますが、私が思う今後の課題は製品の販売方法です。現在、ネット上で製品を表示し、お客様から問い合わせをいただいた後、ご要望を伺っています。問い合わせの内容は、玄関ドアのドアノブを変更できないか、いつまでに完成できるか・・など、様々です。このような要望に対して、出来る限りの対応を行いながら受注活動を進めていきます。今後は、今の販売戦略に加えて、販売経路として川上(設計事務所や施主など)に提案をしていけるような人材を求めています。販促が加速するような方法を考え、自ら動いていく挑戦者を求めています。NAGOMI製品は主に既製品ですが、お客様の要望に応じた形で届けていきたいです。ネット上で、より商品に関する有益な情報をお客さんに届けて、納得いただける商品開発を行っていきます。
NAGOMI事業を成長させていくために、多角化経営として、
協力会社や塗装技術者を新たに迎えていく必要があると考えます。
新井
NAGOMI事業部は、どのような将来やビジョンを実現しようとお考えですか。
松川
この直近2年間はコロナウィルス禍で急激な社会改革の時代であり、苦しい時期にいろんな経験をしてきました。それ以前は採算性を重視してきましたが、振り返ってみると大きなチャレンジがなかなか出来ていなかったことを反省しています。40年以上経験や勘に頼り経営を行っているので、今後はデータを活用しながら戦略・戦術を練っていきます。また、NAGOMI事業を成長させていくために、多角化経営として、協力会社や塗装技術者を新たに迎えていく必要があると考えます。鉄を信じ、鉄のみに想いを込めて今日までやってきました。今後の変革の時代に会社そのものの体質を改めて検証し弱点を克服しながら、ピンチをチャンスに変えて前進していきたいです。
新井
最後に松川会長の「夢」を教えてください。
松川
鉄を極めた事業づくりで経営を存続させてきたことについては、日本一だと自負しています。鉄一筋の事業推進が功を奏し、公共工事として公立・私立を含めた学校関係、官公庁の案件を複数手掛けています。一昨年、国土交通省から依頼を受けて「迎賓館」のフェンスを製作施工しました。また、新宿御苑は数十年かけておよそ3000メートルの耐候性鋼のフェンス製作の実績を重ねています。このような信頼と実績を活かして海外進出もできればと思っています。ともかく、NAGOMI事業部として新しい事業を生み出していきたいですね。
NAGOMI事業部は今が正念場です。内向きの論理ではなく、社員一同立場や制約を乗り越えて、何ができるか考え行動に移したいです。一致団結して未来に向けてともに歩む決意です。